hiramesのブログ

サラリーマンを辞め、起業をするまでの軌跡

夢のDX(デラックス)で業務効率をあげよ

「絶対に嫌だ」

声には出さないが、僕は激しくそう思った。

(・・・なんで僕が?)

自らの点数稼ぎのために、誰からも賛同を得られない提案をした無能な上司からの懇願を前に、感情を押し殺しながら僕は思った。

始まりは、社長のひと言だった。

「我が社もデラックス(おそらくDXのこと)を導入し、優位性を確立する」

DXがデラックスの略で、高級なシステムを導入する位にしか思っていない癖に、正体不明のDXに期待をする経営幹部たちの夢想する顔に愕然とした。

僕は情報システム部門として意見を求められた。

「システムを導入することで、業務が複雑になり、非効率になるなら、システム化は必要有りません。そもそも、属人化してルールもない業務が散在している時点で、システム化は不可能です」

正論である。社長の「DXを進めよ」という指示に真っ向から対抗した。会社では、正しいことが正義ではないという暗黙のルールを無視し、正論で反対した。

その場の空気が凍った。どれだけ鈍感な人間でも気づくレベルで雰囲気が悪くなった。けど、僕は社長の取り巻きたちのようにイエスマンになり、自らのクビを閉めるMっ気はない。

そうこうしているうちに、社長に尻尾を降り、自らの点数を稼ごうとする総務部長がシステム導入の話を進めた。エクセルで管理していた勤怠を、テレビCMで見たことのあるクラウドシステムと契約をしやがった。もちろん、何も考えずに。

情報システム部門の僕は、どんなシステムでも初期設定に膨大な時間が掛かること、さらには、システムを使う人の全員が同じルールを守り、行動することでしか活用できないことを知っている。だから、多くの人間が、自分のルールで仕事をする我が社のような集団からは、苦情が噴出する。

超高齢化が進む我が社では、スマホも扱えず、パソコンも使いこなすこともできない人間が多く、今まで回っていた業務がDX化をすることで停滞する。社長の顔色を伺い、媚を売ることにしか興味がないから、僕の目には見えている未来が見えず、簡単にシステムを導入すれば解決するという浅はかな考えになるんだと思う。

そして、導入をした勤怠システムのパラメータ(利用者、出退勤時間、申請ルートなどなど)の設定時に火を吹いた。何せ、これまでは口頭、もしくは電話での休暇申請をしていたアナログな会社だった。出張の依頼や申請も前日に「明日、〇〇に行ってくれ」なんてことが日常茶飯事的に起こる。システマチックに行動することが苦手な会社。そんな会社だとシステムのパラメータ設定時にルールの整備から始めなければならず(出張時の打刻は、いつ? 家出時刻? 現場到着時刻? などなど)導入開始日になっても、サービスが提供できない。僕の予想通りだ。

情報システム部門で導入を進めて欲しい」

1ヶ月の導入準備期間が過ぎ、結局は、稼働できずに高額なサービス料だけが発生している状態。社長の機嫌も目に見えて悪くなってきたら、僕に仕事を投げてくる。そんなの嫌に決まっている。それも、僕は夢のDX化に反対をしていた。危険を犯して、社長の意向に刃向かった。なのに、「音頭を取れ」と平気で言ってきやがる。こんなクズのために犠牲になる必要はない。

僕はDXを恨む。